2021年下半期読んでよかった本

 

The Address Book: What Street Addresses Reveal About Identity, Race, Wealth, and Power

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なぜ人が生きてゆく上で「住所」が必要なのか、その歴史と文化的な背景、そしてその未来を説明している本。いろんな都市での住所の発展の仕方を紹介している。発展途上国のスラムなど、今まで住所という概念がなかった場所に新しく住所を割当てることで、救援物資が効果的に分配されるのに役に立つという話や、ベルリンでは通りの名前に街の歴史の経過・変化が現れていたりする話が洞察に満ちている。

中でも面白いと思ったのは、日本の〇〇町という概念が取り上げられている章。そういえば多くの日本の通りには名前がついていなかったなーとこの本で指摘されていて気づいた。これは、日本のローカルなコミュニティが、通りというリニアーなものよりも、ある建物の周りを中心にスポット的な発展をしていったかららしい。インサイトフルな一冊。

The Beekeeper of Aleppo: A Novel

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2011年に勃発し、今なお続いているシリア内戦の中、アレッポ郊外で養蜂家をしていた主人公とその家族、妻と一人の息子が安全を求めてヨーロッパへ難民として向かう様子を描いた小説。筆者は、ギリシャアテネで難民キャンプで、UNICEFのボランティアとして働いた経験があり、現地の様子が鮮明にイメージできる物語。住む場所や平和な日常生活、大切な人を失いながらも、蜜蜂のように新たな場所を求めて1日1日を過ごす主人公達の姿に、自分の生活が恵まれていることを再確認させられる。心が痛むエモーショナルな本であるとともに、主人公を取り巻く人々が、こうゆう人身近にいそう、みたいな感じで身近に感じることができ、またそうした人々もそれぞれに今までの人生をサバイバルしてきたバックグラウンドがあり示唆に富む。あまり書くとネタバレになってしまうので控えるが、PTSD心的外傷後ストレス障害)の様子が、PTSDという単語を使わずにうまく描かれていて、後からそれが分かってくる展開にハッとさせられた。

Persepolis: The Story of a Childhood 

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漫画です。グラフィックノベルともいう。シャー政権の崩壊、イスラム革命の勝利、そしてイラクとの戦争による壊滅的な影響を受けた時期に、熱心なマルクス主義者の親を持つ筆者が、テヘランでの6歳から14歳までを過ごした経験をユーモアたっぷりに描いてる。その時期のイランで、一般市民がどんな生活をしていたかがわかる。パブリックな生活面(学校、道路とかで)での規制が厳しくなってくる様子と、家の中での生活の様子とのギャップが面白おかしく描かれている。また、表現の自由を保障している国に住んでいることのありがたさが身に染みる。あとたまに若干グロテスクな描写があるので、そこまで小さい子向けでは無い。アニメ(日本語もある)になっていて第60回カンヌ国際映画祭で審査員賞をとっている。https://ja.wikipedia.org/wiki/ペルセポリス_(映画)

The Code Breaker: Jennifer Doudna, Gene Editing, and the Future of the Human Race

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2020年にノーベル化学賞を受賞したジェニファーダウドナ博士の伝記。ワトソン、クリック、遺伝子編集の研究の始まりからコロみに対するテスト・ワクチンの開発を含めた流れが分かりやすく解説されている。研究者間のドラマ、協力、争いが描かれていて、自身の研究を世に出すには、研究そのものに加えて、政治もうまく立ち回らなければならない、という印象を受けた。遺伝子組換えに関する倫理的な問題に関する各科学者の意見も面白い。登場人物を一人一人丁寧に紹介していて、各人自身が主人公のドラマに思えてくる。科学の進歩には強力なチームワーク(同じコミュニティ内だけでなく、世界中の研究者達という名のチーム)が欠かせないなーと確認させれられる。ダウドナ博士とシャルパンティエ博士(二人でノーベル化学賞を受賞)の友情、文化的違いからの仲違い、そしてノーベル賞受等を通じて再び再開する友情のドラマが、博士も人間なんやなーと思わせてくれる。バイオエンジニアリングは発展の伸び・アプリケーションの幅がすごく大きそうと思った。

When Breath Becomes Air

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夢半ばでガンで亡くなったメディカルドクターが最後に書いたエッセイ。自分が生きる目的と死の意味は何かを考えさせられる。辛い日々を送りながらも、日々を前向きに、目的を持って生きる描写が印象的。医者目線で自身に薬を処方してたり、どんな手術が必要か考えてる描写も面白いと思った。たまにすごいかっこつけた感じのやりすぎな文章があるのもいい。あと、タイトル(日本語訳すると、呼吸が空気に変わる時(?))がとても良い。日本語訳も出ているみたいだけど、そっちのタイトルは原題の良さを残してないのでちょっと残念。